読書感想④「デザインが日本を変えるー日本人の美意識を取り戻す」(前田育男)

マツダのデザイナー、前田育男さんの著書。

デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す (光文社新書)

デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す (光文社新書)

 

マーケティング関連の著書で昨今成功事例として取り上げられることが多いマツダのモノづくりの精神について、デザイン部署のトップにたつ前田氏の改革の取り組み、マツダの社風の観点から述べられている。

車を単なる移動”手段”としか見ていない拙者にとってはマツダの車は「ちょっとかっこいいな」くらいの印象であったが、車一台に込める想いや、日本車というアイデンティティにこだわる前田氏、マツダの物語が丹念に言語化されており、非常に読みやすく、随所で胸が熱くなる。

コンセプト「魂動」という言葉が導き出されるまでの過程や苦悩を知ると車好きでなくともとても惹かれる部分はあるし、今後もマツダの動向には注目していきたいと自然と思える。

また、高度経済成長を突っ走ってきた日本社会、日本人の意識には生産性、機能性を求めることが染みつき、デザイン、美意識が欠けてしまっている日本のものづくり、日本人の美意識そのものについても前田氏は警鐘を鳴らしている。グローバル化、国際競争力の低下が叫ばれる中、多様な価値観を認める、理解する人間が求められるが、まずは自国のアイデンティティ(文化、歴史、芸術とか?)をしっかりと理解、勉強、学ぶことが大切だなと腑に落ちた。人文って大切だとこの年になって何となく感じる…。

「日本人の美意識に基づいたモノづくり(簡素だからこその豊かさ)」

「職人=アーティスト」

前に取り上げた苫野さんの哲学思考だとか、芸術(アート)とは創造(=人をあっと言わせる、思わせるこれまでにないものを創ること)とか、すべて関連していることなんだなとつくづく感じる。面白い。

車、ものづくりに興味がなくとも、自分自身や自社のアイデンティティを見直すヒントが得られるし、普段何気なく目にしている車に込められたたくさんの人の想いに触れることができる、良著であると思う。